茨木のり子vol.2『汲む』

汲む―Y・Yに―   茨木のり子

大人になるというのは
すれっからしになるということだと
思い込んでいた少女の頃
立居振舞の美しい
発音の正確な
素敵な女の人と会いました
そのひとは私の背のびを見すかしたように
なにげない話に言いました

初々しさが大切なの
人に対しても世の中に対しても
人を人とも思わなくなったとき
堕落が始まるのね 堕ちてゆくのを
隠そうとしても 隠せなくなった人を何人も見ました

私はどきんとし
そして深く悟りました

大人になってもどぎまぎしたっていいんだな
ぎこちない挨拶 醜く赤くなる
失語症 なめらかでないしぐさ
子どもの悪態にさえ傷ついてしまう
頼りない生牡蠣のような感受性
それらを鍛える必要は少しもなかったのだな
年老いても咲きたての薔薇 柔らかく
外にむかってひらかれるのこそ難しい
あらゆる仕事
すべてのいい仕事の核には
震える弱いアンテナが隠されている きっと……
わたくしもかつてのあの人と同じぐらいの年になりました
たちかえり
今もときどきその意味を
ひっそり汲むことがあるのです



こちらの写真は、庭のみかん。その青さが沁みます。
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by kannochie | 2015-08-20 23:47 | 音楽 | Comments(2)
Commented by miel12 at 2015-08-21 06:48
おはようございます!カモミールです。
茨城のり子さんという名前をどこかで聞いたことがあると思ったら、《わたしが一番きれいだったとき》という詩を昔読んだことがあるのを思い出しました。読んだときはすごく衝撃的な内容でやるせない気持ちになったことを覚えています。
Commented by kannochie at 2015-08-21 11:54
カモミールさん、こんにちは!
コメントありがとうございます。
《わたしが一番きれいだったとき》《自分の感受性くらい》が有名ですよね~。
弱さと強さを共に晒すことのできる茨木のり子さんは、大きい人だなぁと思いました。
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